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名誉毀損で訴えられても違法性阻却事由が認められるポイント

  • 文責:所長 弁護士 横江利保
  • 最終更新日:2025年1月7日

「あなたの投稿が名誉毀損に当たるとして、住所氏名を明らかにするよう請求されているが、開示して良いですか?」

このような連絡がスマホキャリアやインターネット接続事業者(ISP)、匿名掲示板などのサイト運営者から来たとき、開示を回避するために考えるべきは「違法性阻却事由」です。

違法性阻却事由(=違法性がないと判断できる理由)がある投稿は、たとえ名誉毀損に該当するとしても、情報開示や賠償金請求などの法的措置が認められなくなります。

ここでは、名誉毀損を理由として発信者情報開示請求や損害賠償請求を受けている方が、違法性阻却事由が認められるかどうかを検討するために大切な要点を説明します。

1 名誉毀損の違法性阻却事由について

民事上の「名誉毀損」は、他人の社会的評価を低下させることで成立します。

刑法の名誉毀損罪は「事実を適示する」ことが条件となっています。

一方、民事(損害賠償請求など)では、感想やレビューなどによるケースも名誉毀損に該当する可能性があるため、「事実適示型」と「意見論評型」の二つに名誉毀損の類型分けがされています。

例えば、「A店のラーメンに虫が入っていた」は事実の適示、「A店のラーメンは不味い」は意見の表明です。

どちらも名指しされたA店の評判は落ちてしまうでしょう。

このような他人からの社会的評価が、名誉毀損でいうところの「名誉」に当たります。

しかし、刑法では事実を適示したケースだけが名誉毀損罪となります。

事実の適示が無ければ侮辱罪として扱われます。

発信者情報開示請求や民法709条による損害賠償請求、人格権に基づく削除請求は民事の問題です。

民事では、事実の適示の有無にかかわらず(=意見の表明であっても)名誉毀損となる可能性があります。

事実適示型の違法性阻却事由は、刑法第230条の2が定めています。

事実適示型の違法性阻却事由
  1. 1. 公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
  2. 2. 専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
  3. 3. 摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)

一方の意見論評型では、そもそも事実の適示がされていないのですから、上記3は条件になりません。

そこで、意見論評型の違法性阻却事由は以下のように修正されています。

意見論評型の違法性阻却事由
  1. 1. 公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
  2. 2. 専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
  3. 3. 意見論評の前提としている事実が真実であると証明されること(真実性)
  4. 4. 人身攻撃に及ぶなど意見論評としての域を逸脱したものでないこと(非逸脱性)

名誉毀損の違法性阻却事由については、こちらで詳しくまとめていますのでご覧ください。

2 違法性阻却事由で重要な「真実性」

⑴ 真実性が重要視される理由

違法性阻却事由の中でも、3の真実性要件が、たいていのケースでは第一に検討されることになるでしょう。

  • ・事実適示型:摘示された事実が真実であると証明されること
  • ・意見論評型:真実であると証明されること

というのも、真実性以外は認められやすいからです。

違法性阻却事由は、事実適示型ならば3つ、意見論評型ならば4つのすべてが必要です。

すなわち、一つでも満たされない違法性阻却事由があれば、名誉毀損に基づく請求が認められてしまうことになります。

もっとも、公益性・公益目的・非逸脱性(意見論評型の場合)については多少大目に見てもらえます。

言論・表現の自由を守るためには、社会的に少し問題がある発言でも違法性阻却事由による保護の対象となるべきとされるからです。

しかし、全くの嘘をついて他人の評判を落とすような言葉を許すわけにはいかないかと思います。

些細な食い違いではなく、真正面から現実と異なる事実を書き込んでいれば、違法性阻却事由は適用されません。

そのため、書き込みに関わる事実関係が決定的に重要となるのです。

なお、違法性阻却事由は、原則として投稿者側に主張立証責任があります。名誉毀損をした側に有利な制度だからです。

実際、損害賠償請求では投稿者側から違法性阻却事由はすべてあると主張・証明しなければいけません。

それが、削除請求や発信者情報開示請求では請求者側に転換されます。

投稿自体を消す、あるいは通信の秘密を暴くことは言論の自由と鋭く対立しますから、削除や投稿者の特定をしたい側が責任を負担すべきとされています。

⑵ 意見論評型は真実になりやすい

書き込んだレビューや口コミが名誉毀損に当たるとしても、その感想の「もととなった体験」は実際にあったことですから、真実性は否定されません。

もしあなたが世間の評判に反して「ラーメンが美味しくなかった」「スマホが使いにくくてがっかり」といった辛辣な感想を書き込んだとすれば、ラーメン店やスマホメーカーの名誉は傷つきます。

しかし、意見論評型の違法性阻却事由で問題となるのは感想の妥当性ではなく、あくまで「店に行ってラーメンを食べたこと」「購入したスマホを使ったこと」など、感想を抱いた根拠となる事実が本当にあったことかどうかなのです。

しかし、本当は店に行っていない、商品を購入していないのに、ライバル店への嫌がらせ目的で低評価のレビューを書き込んでいた場合、当然ながら真実性要件は否定され違法性阻却事由は適用されないことになります。

開示請求の通知が来ていれば、その段階ですぐに弁護士に依頼して示談をしましょう。

名誉毀損に該当する意見論評の前提事実が真実だったとしても、他の違法性阻却事由がなければ問題です。

実際にあったことへの感想でも、社会的価値が無いか害が大きすぎるならば名誉のほうが優先されます。

一つの投稿の中に意見論評と事実適示が混じることも珍しくなく、感情に任せて実際にはなかったことも誇張や推論、噂などとして書き込んでも事実適示となります。

特に多いケースが風俗や不倫など性的な話題です。

個人の私生活などプライバシーに関することなら、プライバシー侵害と並んで公共性が否定されることにもなります。

また、「出す食事がここまで不味いんだから衛生管理も行き届いてないかもしれない。厨房は虫だらけなんじゃないか」など、感情的になりすぎて実際には無かったことまで書き込んでしまっていれば、事実適示型の名誉毀損として問題になる可能性もあります。

真実を指摘することと名誉棄損の関係について、詳しくはこちらをご覧ください。

⑶ 名誉感情侵害について

書き込んだ内容が客観的な社会的評価を低下させるものではなかったり、誰のことを指しているのか分からなかったりすれば、名誉毀損自体が成立しません。

しかし、名誉毀損に当たらずとも、主観的な名誉感情(要はプライド)を害したとして、削除請求や発信者情報開示請求、損害賠償請求が認められてしまうリスクはあります。

名誉感情侵害は社会通念上許される限度を超える侮辱行為について成立します。

具体的判断要素は、非逸脱性などと同じく投稿内容や経緯、頻度や回数、期間などです。

過激で攻撃的な人格攻撃は、名誉毀損を回避できても、名誉感情侵害として問題化されてしまうリスクがあることを覚えておきましょう。

3 まとめ

実体験に基づいた口コミは、よほど極端な罵倒をしていない限り名誉毀損に基づく請求が認められる可能性は低いでしょう。

その点では、通常のクレームや低評価のレビューをしたからと言って不安になる必要はありません。

ただし、感情に任せてしまえば、違法性阻却事由が適用されない可能性は否定できません。

名誉毀損や名誉感情侵害の成否、事実適示か意見論評かの分かれ目、違法性阻却事由については、どれも専門家でなければ見通しがつけられないものです。

不安に思うことを書き込んでしまっていたのならば、すぐに削除しておきましょう。

すでに発信者情報開示請求に基づく意見照会回答書が届いている、あるいは開示されてしまって損害賠償請求が来ているなら、お早めに弁護士にご相談ください。

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